
AI時代にエンジニアが真価を発揮する7つの領域
生成AIの登場により、プログラミングの世界は劇的に変化しました。定型的なコードの生成や、面倒な構文のエラーチェックといったタスクは、今やAIが優秀なアシスタントとして肩代わりしてくれます。 しかし、だからといって「エンジニアが不要になった」わけではありません。むしろ、AIがコードを書けるようになった今だからこそ、人間が担うべき「7つの領域」の重要性がかつてないほど高まっています。 近年、AIに丸投げした受託開発プロジェクトが、後になって破綻するケースが散見されるようになりました。それは、AIの特性と人間の役割を見誤っているからです。 AI時代における、真に価値あるエンジニアリングとは何か。私たちが重要視している7つの視点についてお話しします。
1. ソフトウェアアーキテクチャ:AIは「局所」、人は「全体」を見る
AIは、特定の関数や短いロジックを書くこと(局所最適)においては天才的です。しかし、数万〜数百万行に及ぶシステム全体の整合性を保つこと(全体設計)は苦手です。
設計図なしにAIにコードを書かせ続けると、バグを直せば別の場所が壊れる「モグラたたき」状態に陥り、プロジェクトは行き詰まります。これを防ぐのが、堅牢なソフトウェアアーキテクチャです。
なぜ今、OOPとデザインパターンなのか
「オブジェクト指向(OOP)」や「デザインパターン(Strategy, Factory, Observerなど)」は、古くからある概念ですが、AI時代にその価値は再評価されています。これらは、もともと「他者に仕事をうまく任せるための思考フレームワーク」だからです。
カプセル化・継承・ポリモーフィズム: 部品ごとの独立性を高める。
デザインパターン: よくある課題への「定石」構造。
これらを適用してコードの骨格(構造)を人間が定義することで、AIはその枠組みの中で正確に機能することができます。私たちは、AIという優秀な部下を指揮するために、この共通言語を駆使しています。
2. データモデリング:システムの「背骨」を作る
コードは書き直せますが、一度蓄積されたデータ構造を後から変えるのは困難です。だからこそ、データの設計は最初が肝心です。
RDBMS設計: ビジネスの基本データを矛盾なく格納する正規化技術。
NoSQL・ベクトルDB: AI活用で急増する非構造化データへの対応。
データフロー全体: ログの収集、キャッシュ戦略、外部APIとの連携など、データの「流れ」をデザインする力。
AIは「今の答え」は出せますが、「3年後のデータ量」を見据えた設計は人間にしかできません。
3. クラウドアーキテクチャ:コストと性能のバランス
システムが動くインフラの設計も、コード生成AIの管轄外です。
スケーラビリティ: ユーザーが急増しても落ちない構成か。
コスト最適化: 無駄なリソースを使ってクラウド破産しないか。
可用性・冗長化: 災害や障害時にどう復旧するか。
これらはビジネスの規模や予算に直結する部分であり、経営的な判断も含む高度な設計領域です。
4. ドメインモデリング:言葉を構造に変換する
クライアントの皆様が持つ「業界特有の商習慣」や「暗黙の了解」を、システムが理解できる構造に落とし込む作業です。
自然言語(日本語の要望)をそのままAIに投げても、AIは業務の背景にある「文脈」までは理解できません。「実務知識」を「論理構造」へ翻訳するこのプロセスこそが、使いやすいシステムを作る鍵となります。
5. 要求・要件定義:曖昧な「願望」を、正確な「地図」へ
最も上流にある「何を作るか」の定義です。
要求定義: クライアントが実現したいビジネスゴールは何か。
要件定義: それを実現するためにシステムに必要な機能は何か。
AIは「How(どう書くか)」は知っていますが、「What(何が必要か)」と「Why(なぜ必要か)」を決めることはできません。ここを曖昧にしたまま開発に入ると、どんなに優れたAIを使っても「誰も使わない高機能なシステム」が出来上がってしまいます。
6. AI活用設計:プロンプトの一歩先へ
単にChatGPTに質問することと、システムにAIを組み込むことは別次元の話です。
どの業務フローにAIを介在させるか。
AIの回答精度をどう担保するか(ハルシネーション対策)。
人とAIの役割分担(ワークフロー設計)。
「魔法のようにAIが解決する」のではなく、「AIを実用的な機能としてどう組み込むか」というエンジニアリング力が問われています。
7. 非機能要件の理解:見えない品質を担保する
機能(動くこと)以外の品質要件です。AIが生成するコードは、往々にしてここが抜け落ちがちです。
パフォーマンス: ストレスなく動作する速度か。
セキュリティ: 情報漏洩の脆弱性はないか。
保守性: 将来、別のエンジニアが見ても修正できるか。
これらは、プロフェッショナルとして決して譲れない品質の防波堤です。
結論:AI時代のエンジニアは「オーケストラの指揮者」
AIという強力な演奏家(コーダー)を手に入れた今、エンジニアの役割は「自ら楽器を弾くこと」から、「全体の調和を取り、最高の音楽(システム)を創り上げる指揮者」へと進化しています。
細部のコーディングをAIに任せられるようになった分、私たちはより本質的な「設計」「構造」「ビジネス価値」に注力することができるようになりました。
AIに"使われる"のではなく、AIを"使いこなし"、堅牢で成長し続けるシステムを構築する。それが、今の時代に私たちが提供できる最大の価値です。
真屋 明典
ビヨンドウェブ開発者(TensorFlow認定開発者) 日本の中小企業の価値は10倍になると思っている人。「Small is beautiful」が座右の銘。
