
EC事業者はChatGPTの「インスタント購入」に備えよう
#ACP #エージェンティックコマースプロトコル #ChatGPT
生成AIの普及で「商品探索→比較→購入」がAIとの会話の中で完結する時代が到来する可能性があります。OpenAIのAgentic Commerce Protocol(ACP)を導入すると、ChatGPTが顧客の“購入代理”として在庫確認、送料計算、決済委譲までを安全に連携します。実装のポイントは3つ ── 商品フィードで最新・正確な商品情報を提供し、チェックアウト連携で価格・在庫・税・配送を自社側で確定し、決済委譲で既存P決済プロバイダを使って課金・入金フローを維持すること。EC事業者は従来どおりAI経由の注文も既存の注文台帳に統合できます。新しい販売チャネルを追加しながら、オペレーションや会計処理を変えない――その全体的な流れをなるべくわかりやすく解説します。
ACPとは?
ACP(Agentic Commerce Protocol)は、購入者、AIエージェント、およびEC事業者が「会話のまま購入を完了」するためのオープン標準です。このプロトコルは、OpenAIとStripeにより共同策定され、Apache2.0ライセンスで公開されています。
このACPがもたらす便利な未来とはどのようなものでしょうか?例えば、旅行の計画をAIと相談しながら、そのままAIとの対話を通じて宿泊先や航空券を予約できるような未来です。どこまで日本で普及するかは未知数ではありますが、EC事業者としては、ACP対応の基盤を整えておくことは、GEOやLLMOの観点からも多くのメリットがあると思います。
ACPの実装メリット
在庫確認から配送見積、決済、そして注文確定までを自動で連携可能
ChatGPTなどのエージェントから迅速かつ安全に購入手続きを完了
統一された基準により柔軟なシステムインテグレーションが可能
最新の動向
日本国内では2025年10月現在まだ未対応。
PayPalは、自社のプラットフォームにACPを採用する計画を発表しました。これにより、ChatGPT内で「Buy with PayPal」のような体験を提供する予定です。Paypalの公式プレスリリース
公式ドキュメントとガイド
ACPに関する公式ドキュメントや実装ガイドは、OpenAIおよびStripeの両方で提供されています。
OpenAIの公式ドキュメントはこちら
インスタントチェックアウトの全体像

ChatGPTで「インスタントチェックアウト」を有効にするには、3つのフローを実装します。
商品フィード共有(検索/比較に出す)
注文/チェックアウト連携(会話UIからの購入を成立させる)
決済の委譲(PSP経由で安全に課金する)
1.商品フィード共有(Product Feed Spec)
目的:ChatGPTが貴社の商品を正しく表示・検索できるように、構造化データを定期供給。
形式:TSV / CSV / XML / JSON(HTTPSで暗号化配信)
更新頻度:推奨は高頻度(最短15分ごと)
必須項目:商品ID、名称、説明、価格/通貨、在庫・可用性、画像/メディア、購入可否(チェックアウト可状態)
推奨項目:複数画像、動画、レビュー、ランキング/売れ筋シグナル、カテゴリー/属性、配送リードタイム等(露出・信頼・順序最適化に有利)
導入手順:
暗号化HTTPSでフィードURLを用意
サンプルフィードを提出 → バリデーション
本番運用(定期リフレッシュ + 差分/全量更新)
注意:価格、在庫、配送の可否が正確であることは最も重要です。UIに誤差があると、すぐにユーザーが離脱したり、信頼を失ったりします。
2.注文/チェックアウト(Agentic Checkout Spec)
目的:ChatGPTがユーザーの購入代理として、会話の中でチェックアウトを進める。
ChatGPT側:購入者情報(氏名/住所/連絡先)、配送/受取オプション、支払い手段を収集
商流:ChatGPT → 貴社のACPエンドポイントに対して
チェックアウトセッション作成/更新
選択肢の取得(配送/割引/在庫確保)
合計金額(税/送料含む)返却
事業者システム側の責務:
入力バリデーション(住所正規化、SKU/在庫整合、クーポン順序、税計算)
配送オプションとリードタイム算出
税計算/最終金額確定
自社スタックで不正/リスク判定
(決済委譲後)注文承認/却下を返却
UI:チェックアウト画面はOpenAIのUI内に描画されますが、状態管理/確定は貴社システムで行います。
実装のコアは「チェックアウトの状態管理」と「価格/在庫の最終決定は常にEC事業者側」にあると捉えてください。
3.決済(Delegated Payment Spec)
目的:OpenAIが取得した支払い情報を、指定決済プロバイダー(例:Stripe/PayPal等)に安全に委譲。
OpenAIは責任販売者(EC事業者)ではありません。決済プロバイダーはEC事業者指定、普段のECと同様に課金・売上計上します。
フロー:
OpenAIがワンタイム支払いリクエスト(上限金額・有効期限付き)を準備
EC事業者の信頼済み決済プロバイダにペイロードを受け渡し
決済プロバイダが支払いトークンを発行 → OpenAI → EC事業者へ連携
EC事業者がそのトークンで課金 → 結果を返却
初期実装:Stripeの「Shared Payment Token」が対応済。他決済プロバイダも順次対応予定。
補足:対応カードはネットワークトークンへアップグレード(セキュリティ/承認率の向上が期待)。
まとめ:ACP対応は推奨
ACP対応の準備は早いほど良いでしょう。5年先の未来を見据えると、ChatGPTだけでなく様々なAIサービスやプラットフォームがEC事業者の商品フィードを活用する未来はほぼ間違いないと思います。
実装は「3つ」だけ覚えればOK
商品フィード:最新の価格・在庫・メディアをHTTPSで定期提供(最短15分間隔)。
チェックアウトAPI(ACP):会話UIからの見積/確定を自社側で最終判断。
決済の委譲:OpenAI→決済プロバイダへ安全に支払い情報を受け渡し、課金は決済プロバイダーで。
EC事業者の舞台裏は複雑で頭が痛いですが、ACP対応はこれらの3つのスコープに分けて行うと実装が容易になるでしょう。
こうした準備を通じて、貴社のビジネスが持つ潜在力を最大限に活かし、新たなビジネスチャンスを確実に捉えていきましょう。

真屋 明典
ビヨンドウェブ開発者(TensorFlow認定開発者) 国内外で16期連続黒字企業運営
